東芝過労うつ病労災・解雇裁判―最高裁勝訴を勝ち取るまで

原告 重光 由美

重光由美さん

裁判に至る経緯

私は、東芝深谷工場で、液晶開発技術者として働いていましたが、2000年10月より始まった、液晶生産M2ライン立ち上げプロジェクトや、新製品の開発責任者業務での、厳しいスケジュールやノルマ、長時間過密労働によりうつ病を発症し、体調不調を訴えてもリーダー業務をさせる上司のパワハラ等により、症状が増悪し、2001年9月より休職に追い込まれました。当時、同じ業務に従事した同僚が半年間に2人自殺(1人労災認定)しています。
3年間休職しましたが、復帰の目途が立たず、会社に労災と認めるよう求めました。会社が認めなかったため、2004年9月に熊谷労働基準監督署に労災申請をしました。会社からは、休職期間満了を理由に解雇されたため、解雇無効の裁判を、同年11月に東京地裁に提訴しました。

地裁と行政訴訟

裁判では、東芝は、嫌がらせ、偽のタイムカードの提出、同僚に口裏を合わせて嘘をつかせる、引き伸ばし等々、徹底抗戦をしてきました。私の症状を悪化させ、裁判をあきらめさせることを狙ったとしか思えない態度で、裁判のたびに私の体調は悪化しました。労災は、1年4カ月後に不支給決定となり、埼玉労働局への審査請求も棄却されたため、労働保険審査会に再審査請求をし、2007年7月に、労災不支給取消訴訟(行政訴訟)を東京地裁に提訴しました。
労基署では、長時間労働が認められているのに、なぜか不支給となり、東芝が厚生労働省に働きかけて強引に労災不支給にしたのではないか、と思える状況での労災不支給でした。
裁判、労災不支給と、体調悪化はひどかったのですが、「裁判では公正に判決が出るはず」と信じて、東芝との解雇裁判、行政訴訟2つの裁判をたたかってきました。
そして、提訴して3年半後の2008年4月に、東京地裁で、業務上であること、東芝の解雇が無効であること、東芝側に全面的に過失があるという、画期的な全面勝訴判決を勝ち取ることができました。一年後の行政訴訟でも勝訴し、こちらは判決が確定し、労災認定されました。

高裁での事実上の敗訴

東芝が即日控訴して始まった東京高裁での控訴審では、東芝は相変わらず徹底抗戦を続け、労災認定された後も、「わが社は労災と認めていません」と国の決定を否定する主張をしてきました。覆ることのない労災さえ否定する東芝の主張は明らかにおかしいから認められるわけがない、そう思っていましたが、東京高裁は、東芝の主張を大幅に認め、私にも過失があるとして、東芝の損害賠償額を地裁判決より2割減らすという、事実上の原告敗訴と言える判決を出しました。
うつ病を患った病気の私より、明らかに矛盾した主張をする大企業の主張が認められる、裁判は公正には行われない。病気の労働者より、大企業が圧倒的に有利なのだ、そして、精神疾患への偏見は根強く、裁判官には、精神疾患になった私を、弱い人だと思われてしまったのだ、と感じました。

最高裁への上告

最高裁では、最初に「上告受理申立理由書」を提出して終わり、あとは、ただ結果を待っているだけ。これでは絶対に最高裁で勝訴できない。有効な支援活動が必要だと感じていました。これまで、病気で外出も難しい私の支援活動はネットが中心でした。裁判勝訴が新聞報道されたこともあり、ブログへのアクセスは1日200以上、HPを見たと取材の申し込みもあり、ネットでの支援活動は、うまくいっていました。しかし、高裁判決後、裁判官に直接働きかける支援活動も必要だと感じ、体調が悪い私ができる対策を模索し、まずは、支援者と、定期的に打ち合わせを開始することから始めました。この頃、「いの健」東京センターを紹介され、同センターが行っていた、月1回の「最高裁要請行動」にも参加しました。最高裁に直接働きかけることができるのは最高裁要請だけ、そう思い、最高裁要請に力を注ぎました。
精神疾患の偏見をはねのけるには、精神疾患を患っている私が自ら訴える必要がある、そう思い、自らマイクを持って、最高裁の前で、「うつ病は誰もがなる」と訴えました。また、この事件がマスコミ報道され、世間の注目を浴びていることを伝えるため、書記官要請では、マスコミ報道などの資料を提出しました。上申書も多くの人に書いてもらい、提出しました。
他にも、東芝株主総会での宣伝行動や東芝本社前でのビラ配り、集会での訴え等々、体調が許す限り、支援要請を行いました。支援者の人数も限られていましたが、ネットでの呼びかけで宣伝行動に来てくれる人もいました。集会で、東芝グループ会社を相手に裁判している人と知り合い、東芝本社前の抗議行動に参加もしました。労働者が圧倒的に強い会社を相手にたたかうのは、大変ですが、そのために、労働者が様々な活動をしていることを学びました。

上告受理と勝訴

最高裁に上告をして3年。本年3月24日に勝訴判決が出ました。一度も会ったことのない最高裁裁判官の判決文には、正直、大きな期待はしていませんでしたが、大変素晴らしい内容で、全面勝訴だった地裁より、私の受けた苦痛をより積極的に評価してくれており、これだけの勝訴判決を勝ち取れたのは、最高裁要請の効果が大きかったと思います。

記者会見での原告コメント

最高裁判決を受けての私のコメントは次の通りです。『本日、最高裁において、私の過失を安易に認めた高裁判決を否定し、会社側の過失を全面的に認めた判決が出たことを大変うれしく思います。「うつ病は心のかぜ、気軽に精神科を受診しましょう」と言われているのに、一回程度の精神科の受診歴があることを持って、私の過失やうつ病のなり易さとした、高裁の裁判官には、社会問題への認識不足を感じます。
うつ病は誰もがなる病気ですし、適切な対応でよくなります。今日の判決で、社会のメンタルヘルスが向上することを期待します。
裁判開始からは10年という長い時間が経っています。東芝は、「メンタルヘルス対策をしています」と公言しているのですから、差し戻し審では、誠意のある対応をしていただきたいと思います』

差し戻し審

最高裁では、素晴らしい判決を勝ち取ることができました。しかし、最終的な目的は、私が円満に会社に復帰することです。高裁での差し戻し審が6月9日から始まりました。支援要請が重要なことは最高裁で学びました。この裁判を社会のメンタルヘルス向上の歴史的な裁判とすべく、良い結果となるよう頑張りますので、今後もご支援よろしくお願いします。

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