WHO/ILO長時間労働と死亡との関係についての報告を受けての要望を発表

「WHO/ILO 長時間労働と死亡の関係についての報告」を受け、

日本の長時間労働規制の遅れを見直すことを要求する

               2021年8月3日

               働くもののいのちと健康を守る全国センター

                理事長  垰田 和史

「WHO・ILOによる長時間労働による健康リスク・死亡の関係についての報告」(5月17日)が発表されたことにあたって、いの健全国センターは、政府がその報告を真摯に受け止め、長時間労働による健康被害防止を強く求める。

1,WHOとILOという2つの国際機関による「長時間労働が心臓病と脳卒中による死亡者を増加させる」と研究論文(「報告」)のその主な内容は以下のようになっている。

①週55時間以上働く労働者は、週35~40時間働く場合と比べて、脳卒中のリスクが約35%、虚血性心疾患のリスクが約17%高くなる。2016年には、週55時間以上働いた結果、398,000人が脳卒中で、347,000人が心疾患で死亡したと推定される。

②2000年~2016年の間に、長時間労働による心疾患の死亡者は42%、脳卒中の死亡者

は19%増加している。

③長時間労働(週55時間以上)の労働者は、2016年、世界では人口の8.9%にあたる4億8000万人であり、2000年から2016年の間に有病率が9.3%増加している。この傾向が続けば、長時間労働という危険因子にさらされる人口はさらに拡大すると考えられる。

④長時間労働による疾病負荷が、他の職業的危険因子の中で最大である。

2,この「報告」は、日本の「働き方」に大きく警鐘を鳴らしている。日本では、週60時間以上働く労働者が8.2%:450万人(平成27年度「労働力調査」)という状況であり、早急に、対策を講じることが求められている。しかし、そもそも、2019年4月から施行された(改正)労働基準法による、時間外労働時間は、そもそも上限が「1か月100時間」「2~6か月で1か月あたり80時間」というものであり、「報告」の「週55時間以上の長時間労働で脳・心臓疾患のリスクを高める」*を超えている時間数である。

(*「報告」の「週55時間以上の労働」は、1か月に換算すると時間外労働1か月あたり65時間以上に該当する)

その上、労基法の時間外労働上限規制は、長長時間労働が横行している職種を「適用除外」とし、過労死ラインの上限規制すら先延ばしとし、実際上、野放しとしている。

3.「報告」ではさらに、COVID-19のパンデミックによる「働き方」の変化(ギグ・エ

コノミーの拡大、新しい労働時間の取り決め:オンコール勤務、テレワーク、プラットフ

ォーム・エコノミー) が、今後労働時間が増やしていく危険性を指摘している。

日本でも同様の事態が進行している。なかでも、不安定雇用労働者の経済困難による

ダブルワーク、トリプルワーク、医療・介護労働者をはじめエッセンシャルワーカーの働

き方の厳しさは、いのちに関わる事態を招きかねない。政府がこれまで進めてきた雇用政

策、医療・介護労働をないがしろにしてきた政策を根本的に転換すべきである。

4,現在、過労死防止大綱の改定、脳・心臓疾患の労災認定基準の改訂が進められている。

この時期に出された、WHO/ILOという国際機関からの「報告書」を、正面から受けと

め、長時間労働を防止し、死亡・健康を損なうリスクを減らす改訂としなければならない。

特に脳・心臓疾患の労災認定基準においては、「睡眠時間」をもとにする考え方をあら

ため、「労働時間」そのものを基準することが、「報告書」に示された国際的な考え方であ

る。

5.記者発表によると「労働時間に関するILOの現行条約15本の実施によって救われた可能性のある人の数は約14万3000人に達し、全ての国がこの条約を批准したとしたら、世界全体でさらに41万5000人の命が救われる可能性があることが示されている」としている。日本は労働時間に関するILO条約を1本も批准していない。ILO常任理事国としてその姿勢が厳しく問われる。

6.長時間労働を考える上で、ジェンダーの視点をもつことが極めて重要になっている。多くの女性が、家事育児労働(ケア労働)を担い、その結果、疲労回復に必要な睡眠時間や自由時間が男性に比べて短くなっている。特に日本はジェンダーギャップが世界156か国中120位と深刻な状況にある。長時間労働の防止は、ディーセントワーク・ディーセントライフ実現の土台である。人間らしく働き、生活する社会の実現のために、今「報告」を積極的に受け止め、政府・事業主・労働者が協力して、長時間労働をなくす取り組みを進めることが求められている。

7.「報告」にみられるように、諸外国の多くは「週55時間以上(すなわち月65時間の時間労働)」を長時間労働と規定している。日本の統計調査においても、同じく「週55時間」を基準することを求める。

以上。

*「声明・見解・要請」のコーナーにはPDFで掲載 こちら

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