第10回総会決定集
1.総会の概要
働くもののいのちと健康を守る全国センター第10回総会が、12月7日に平和と労働センター・全労連会館で開かれた。代議員・役員の総会構成員定数は259人で、82人(代議員52人、役員30人)が出席し、102人の代議員から委任状が提出され、合計184人であり、過半数を超え総会は成立した。新年度活動方針案、2007年度決算及び会計監査報告、2007年度決算繰越金処分案および2008年度予算案、新役員選出案のすべての議案を満場一致で採択し、新役員(別項)を選出した。
第4回働くもののいのちと健康を守る全国センター賞は、じん肺の根絶に向け大きな成果を勝ち取った全国トンネルじん肺根絶訴訟原告団・弁護団、1973年に創刊され本年3月に200号を迎えた「労働と健康」誌を発行した大阪職業病対策連絡会に贈られた。
2.総会役員
総会議長は全教・水落貴司代議員、千葉センター・鮫島敏明代議員がつとめた。資格審査委員は柴田和啓事務局次長、自治労連・坂井志乃代議員、愛知センター・鈴木明夫代議員がととめた。議事運営委員は、鈴木蔵人理事、化学一般・金内忠男代議員、東京センター・廣田政司代議員がつとめた。
3.主な議事と発言(くわしい内容は「全国センター通信」91号参照)
開会あいさつを宮垣忠副理事長が行った。 福地保馬理事長は、「全国センターは98年に結成され今年10年目を迎える、この10年は、自殺3万人を超え、労働ビッグバンが本格化した時期でもある」と述べ、「10年目を迎える全国センターが今後、どのように活動をどのように進めていくか。積極的な討議を」とあいさつした。
日本共産党・小池晃参議院議員、韓国・源進職業病管理財団の朴賢緒理事長、全建総連・宮本一労働対策部長、労働科学研究所・酒井一博所長(代理:内藤堅志研究部主任研究員)の4人の来賓あいさつがあった。
過労死弁護団全国連絡会、ILO駐日事務所、高橋千鶴子衆議院議員のメッセージが紹介された。
今中正夫事務局長が新年度活動方針案、決算報告、予算案等の議案を提案し、貝之瀬信夫会計監査が2006年度会計監査報告を行った。新役員の提案を木部智明副理事長が行った。
19人の代議員が発言した。働くものの健康破壊の現状とそれを改善するとりくみ、過労自殺などの労災認定闘争、アスベスト被害者の救済、過労死等の労災認定闘争など、活動方針案を補強する積極的な意見が述べられた。
事務局長の総括答弁を受け、すべての議案は満場一致で採択された。新役員を福地理事長が紹介し代表してあいさつした。閉会あいさつを長谷川吉則理事長代行が行い、すべての議事を終了した。
目次
T.はじめに-10年目を迎えた全国センターの活動の成果と教訓W.働くもののいのちと健康を守る活動の課題
−中・長期的な目標も視野に入れた今後1年の方針−
T.はじめに−10年目を迎えた全国センターの活動の成果と教訓
1998年12月15日、「働くもののいのちと健康・権利を守り、人間が尊重され、安心して働ける職場、社会の建設を、過労死も労災職業病もない21世紀をめざし、多くの人びとと、多くの団体・地方組織と、そして多くの専門家と共に『働くもののいのちと健康を守る全国センター』は積極的に活動することを、ここに宣言します」(設立宣言)と、全国センターは結成されました。
それから9年で働くもののいのちと健康を守る運動は大きく前進してきましたが、派遣、請負など不安定雇用者が増大し、成果主義賃金の導入が進むなど「働くもの」の状況は大きく変わり、いのちと健康をめぐる状況も大きく悪化してきました。しかし政府、財界はそのような状態を改めようとはせず、「労働ビッグバン」と称しさらに労働者保護法制の改悪を進め、労働者の権利を奪う攻撃をかけてきています。
今年度の活動方針は、働くものの働き方の変化、いのちと健康をめぐる危機的な状況をいかに打開していくか、さらにこれまでの活動を継承し発展させていく活動家の養成が重要になっていることから、10年目を迎えた全国センターの活動の成果と教訓を提起し、中・長期的な展望も視野に入れ作成しました。10年目を迎えた全国センターのより深い総括や働くもののいのちと健康を守る活動の今後の方向性については、「10周年記念事業」などで今後さらに議論されなければなりませんが、その議論の出発点として今回の活動方針でも一定の内容を記述することにしました。
上記の立場に立ち、この9年間の全国センターの活動の成果と教訓について、以下の6点を提起します。
1. | 労働組合、中小業者、農民、被災者などの運動団体、弁護士、研究者、医師・医療機関などが共同し、働くもののいのちと健康を守る事業を進めてきた。 |
2. | 過労死、過労自殺など労災・職業病の被災者・遺族、アスベスト被害者の救済にとりくんできた。 |
3. | 被災者救済から、健康、安全を確保し過労死などの労災・職業病を予防する活動にとりくみを広げてきた。 |
4. | 働くもののいのちと健康に係わる制度をめぐり、政府などの動きに機敏に反応したたかってきた。 |
5. | いのちと健康を守る活動家を養成してきた。 |
6. | 各地に地方センターが結成され、単産でも交流集会がもたれるなど主体的力量がアップした。 |
1. | アスベスト、じん肺の被害者救済と根絶のとりくみ |
2. | 過重労働による過労死、過労自殺をなくし、メンタルヘルス不全を予防する活動 |
(4)労災など再審査制度改善のとりくみ
総務省行政不服審査制度検討会をめぐる動きと労働保険審査会のあり方など再審査制度についても、労働基準行政検討会を中心に議論し対応してきました。
関東甲信越地方センター連絡会に「たたき台」をつくることを要請し、四役会議をへて全国に意見を求め、5月の理事会で全国センターの意見をまとめることができました。
内容は、以下の6点です。
@ 労災・公務災害に係る行政不服審査制度は、報告書がまとめたように、「簡易迅速な救済の確保」と「行政の適正な運用が図られる」のであれば今後も必要である。一般法である行政不服審査法の見直しに合わせて、この目的が実現できるよう関係 省庁に抜本的な改善を求める。
A 審査請求は1段階とし、各都道府県単位に第三者性を確保し裁判と同じように対審構造を備えた審査会(仮称)を設置しこの審査会に対する審査請求制度を確立する。
B 不服審査前置制度を廃止し、審査請求をせずに請求人が行政訴訟を選択できるようにする。
C 審査請求では、認定調査での調査内容・記録等の閲覧、コピーを請求人に保障し、争点を明確にした上で審査を行う。
D 審査請求の標準審査期間を明示する。
E 労働福祉事業についても審査請求を認める。
その後、総務省から「行政不服審査制度検討会最終報告−行政不服審査法及び行政手続法改正要綱案の骨子−」が発表され、来年の通常国会に上程される見通しです。全国センターとしての上記の6点を基本にしながら、厚労省、基金本部など各方面との懇談を重ね、審査制度の改善を求めていくことが大事になっています。
厚労省は、労災再審査請求などの個別法の見直しでは、「中間取りまとめに対する厚生労働省の意見」で、現行の2段階の審査を妥当とし最終報告書に反対の立場を示していることから、厚労省などへの働きかけを強めことが必要になっています。
(5)過労死裁判での勝利など被災者救済のとりくみの前進
この1年間、金谷訴訟、小児科・中原医師の訴訟、教師の大友先生の訴訟、中部電力の過労自殺訴訟など、過労自殺に関する行政訴訟で特筆すべき勝利を勝ち取ってきました。しかし全国センターの2007年度係争事案調査では、各地方センター・地方組織がかかわっている事案として、過労死で27例、過労自殺で26例など105の事例で係争中です。労働保険審査会で係争中は26例、地方裁判所で係争中は19例など、労(公)災認定を勝ち取ることの難しさが浮き彫りになっています。特に地方公務員災害補償基金制度での認定数は2006年度で脳・心臓疾患でわずか13件、精神障害で14件と異常な少なさです。労災・公災の認定基準の改善、労働保険審査会や基金本部など行政不服審査制度改善の必要性が明らかになっています。
今年度は労働保険審査会交渉ができませんでしたが、昨年度要求したホームぺージが作られるなど成果がありました。
3. | 労働安全衛生活動をになう人づくり |
(3)各ブロックセミナーの成功
2月17日、札幌市内で「2007働く人びとのいのちと健康を守る北海道セミナー」が開かれ、全道から82名が参加しました。「過労死・過労自殺の認定基準を見直す」と題した岡村親宜副理事長の記念講演、「太平洋炭鉱離職者の健康調査」の報告などが行われ、5分科会で25本のレポートがあり、討議と交流を深めました。
6月2日〜3日の両日、「第3回はたらくもののいのちと健康を守る中国ブロックセミナ−」が松江市で開催されました。島根県では初めてのセミナーで、150名の仲間が参加しました。佐々木昭三理事の「働くもののいのちと健康をめぐる情勢」の基調講演、労働科学研究所の阿部眞雄氏の「職場のゆがみをただすメンタルヘルスケア」の特別講演が行われました。
第40回労災職業病一泊学校は、大阪、京都など近畿各県から155人が参加し、11月3〜4日、京都で開催されました。「取り戻そう、『人たるに値する』労働と健康」をここ数年スローガンにして開催されている労災職業病一泊学校は、今年で40回目になりました。記念講演は 阿部眞雄氏の 「労働組合がとりくむメンタルヘルス」でした。
いのちと健康を守る第3回東北セミナーは11月10〜11日、青森市で開かれ90人が参加しました。記念講演は李永俊氏(弘前大学)による「地方で生きる若年非正規雇用者の実態とその問題点」でした。「長時間過密労働、慢性疲労とリスク」など4つの分科会が行われました。
12月1〜2日、「人間らしく働くために 第18回労災職業病九州セミナーin鹿児島」(伊藤周平実行委員長)には九州各地から500人を超える参加者が参加し、今年のテーマである「格差社会と働くものの健康」について学習と交流を深めました。「青年の雇用と健康」など8つの分科会が持たれました。
第7回働くもののいのちと健康を守る関東甲信越学習交流集会は来年2月に開催されます。
(4)地方センターなどでのとりくみ
地方センター、単産でも労働安全衛生講座や研究者や専門家を呼んでの学習会などが積極的にとりくみまれました。そのほか昨年の九州セミナーのとりくみの中で青年自らが健康調査にとりくんだ経験、京都では中田君の過労死裁判を支援する青年を中心としたネットワークができたことなど、青年の自主性を尊重しながらともに成長していくようなとりくみも始まっています。
4. | 特定健診・保健指導に対する対応と、不安定雇用者、中小零細業者など地域で健康を守るとりくみ |
5. | 組織と財政の強化 |
6. | ILOなどの国際活動 |
1.財界、政府による労働法制の改悪と雇用の変化
(1)労働法制改悪の流れ
1991年にバルブが崩壊し、国と地方の財政危機が一層深刻さを増すなか、政府・財界は、国際競争力を強化するとして、「構造改革」路線のもとで労働法制改悪政策を押し進めてきました。労働法制の連続的改悪、非正規労働者の増大、所得格差の拡大するなかで働く人びとをはじめ国民各階層の健康破壊が広がりました。患者の負担を増やした一連の社会保障改悪も健康悪化の要因です。国民健康保険の保険証取り上げなどにより無保険で、受診できない国民も増えています。
労働法制改悪の流れは、企業が最大限の利潤を追求するための法改定の過程でした。1985年労働者派遣法が制定され、1999年には派遣事業の対象を拡大し原則自由化される改悪が行われ、2003年には製造業が派遣の対象となるなど、さらに緩和されました。1995年の日経連の「新時代の『日本的経営』」は、年功序列賃金から成果主義賃金への変更を求め、正規職員を大幅に削減し不安定雇用労働者を増やし、「雇用の流動化、多様化」をはかるものでしたが、そのための法改正が進みました。
労働時間でいえば、週40時間労働の導入で1日8時間をあいまいにさせる変形労働時間制の拡大、フレックスタイム制、裁量労働制が推進されてきました。2005年には年間総労働時間を1800時間にすることをめざした労働時間短縮臨時措置法を廃止しました。
2007年には、規制改革・民間開放三カ年計画(閣議決定)で、ホワイトカラーの労働時間規制をはずすホワイトカラー・エグゼンプション制や解雇の金銭解決制度をねらう労働契約法制などを打ち出しました。ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は当面棚上げとされていますが、派遣期間の制限撤廃など派遣法再改悪を含め、政府、財界は労働者保護法制を根底からくつがえす「労働ビッグバン」を推進しようとしています。
衆院厚生労働委員会で11月7日、最低賃金法改定案と労働契約法案が自民、公明、民主などの賛成多数で可決されましたが、ワーキング・プアが増えている現状を改めるものではありません。労働契約法案の可決も重大です。労働者の合意がなくても、使用者が就業規則を変更することができ、労働条件を引き下げる仕組みが盛り込まれています。
(2)憲法やディーセントワークの流れに逆行
労働法制の根拠法としての憲法は、27条2項で「賃金、就業規則、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とされ、労働基準法や最低賃金法などがこの法律にあたります。改憲派の主眼は、「第9条」にありますが、労働法制の改悪には憲法上の関連規定の見直しも必要です。憲法を守る運動と深く結びつき、労働法制の改悪を阻止することが重要になっています。
また財界、政府の「労働ビッグバン」の方向は、EUやILOなどで主張され、具体化されているディーセントワークの流れと逆行します。厚生労働省は今年8月、「ワークライフバランスと雇用システム」と題する「労働経済白書」(2007年版)を発表しました。そこでは、「今日、一人ひとりの労働者が抱える課題は多様であり、個別化している」、「仕事の成果やとりくみに対する努力を個々に評価してもらいたいと願う労働者の意識が底流にあり」などと述べています。財界は「労働関係の個別化」や「労働者の意識の変化」を口実にして、雇用や労働条件を市場原理、競争原理にまかせるよう要求しています。これに対しEUやILOの考え方の基本は、「仕事と生活の調和」は労働者の権利であり、政府はそれを支援し、条件を整備する責任があるとするものです。そして、バランス政策を推進する企業の社会的責任を明確にしています。こうした考え方に立って、「ディーセントワーク(人間らしい労働)」やワークライフバランスなどを促進する施策が公共政策として展開されています。厚労省、財界のいう「ワークライフバランス」 は、EUやILOの考え方とは基本的に異なり、資本家だけに都合のよいニセの「ワークライフバランス論」です。
(3)労働法制改悪の流れの中での雇用形態の歴史的変化
連続的な労働法制改悪のもとで、非正規労働者が急速に広がっています。1993年には881万人(全労働者対比16.4%)であった非正規労働者が2007年には1,726万人(33.7%)に急増し、とくに女性と青年労働者は5割が非正規労働者となっています。正規労働者の非正規労働者への置き換えが進み、パート、アルバイト、派遣、スポット派遣などでしか、若者が働けず、自立を困難にするワーキング・プア化、ネットカフェ難民化が進行しています。
「雇用構造が日本の歴史でこんなに劇的に動いたのはおそらく初めて」という識者の指摘があります。またこの間、成果主義賃金が広がり、職場に「地殻変動」を生んだとの指摘もあります。
長時間労働については、従業員100人以上の企業の正規従業員を対象に独立行政法人の労働政策研究・研修機構が行った「経営環境の変化の下での人事戦略と勤労者生活に関する実態調査」(07年7月)によれば、80.8%にのぼる労働者が深夜・休日出勤や残業が「ある」と答えています。また、過去1年間に有給休暇を取得したことがない労働者は全体では18.3%で、週60 時間以上働いている人にかぎると38.5%にはねあがります。
週60時間以上働く人は、30代男性では、4人に1人にもなります。この層は、過労死の危険も高く、メンタルヘルスでも問題のある層です。長時間残業が野放しにされ、これに成果主義賃金が加わって、サービス残業に拍車がかかっています。厚生労働省によると、平成 13 年 4 月から平成 19 年 3 月までの 6 年間における賃金不払い残業の是正企業数は 6,840 企業、対象労働者数は 849,478 人、支払われた割増賃金の合計額は 1,078 億 7,482 万円、企業平均では 1,577 万円、労働者平均では 13 万円にのぼっています。
2.自己責任を押しつける特定健診・保健指導
医療費削減をねらいとし、メタボリックシンドロームに重点をおいた特定健診・特定保健指導が来年4月から始まります。これは理事会としての見解で明らかにしましたが、憲法で定める国の公衆衛生に関する責務を放棄し、国民に健康の自己責任を押しつける多くの問題点を持った制度です。職場では労働安全衛生法の事業所健診が優先されると言うことにはなっていますが、保健指導は保険者が行うとされています。この制度は日本の公衆衛生、働くものの健康に大きな影響を与えようとしています。
特定健診・特定保健指導の受診促進やポピュレーションアプローチなどを担うために、二次医療圏に新たに地域・職域連携協議会が設置されます。地域の労働組合、民主団体などがその動向に眼をむけ、この動きに対応して「地域・職域丸ごと健康づくり」運動を検討していくことが求められています。
3.国民各層の生活困難と健康悪化
(1)社会格差の拡大
所得・雇用をはじめ社会格差の拡大が進んでいます。「構造改革」路線のもとで、大企業の役員は所得が倍増し、株主への配当は3倍と急増しています。逆に労働者の賃金は同じ時期にマイナス3.8%までに落ち込んでいます。 国税庁「民間給与実態調査」によれば、労働者の年間平均給与が97年の4,673,000円をピークにして、年々低下し、05年にはピーク時から305,000円減の4 , 368 , 000円まで下がっています。
さらに所得格差の指標であるジニ係数は96年から急激に上昇し、05年度は、過去最大の0.52となっています。ジニ係数は0〜1の範囲で表され、0に近いほど平等で、 1 に近づくほど格差が大きい状態を表し、0.5以上は格差が大きく社会のゆがみが許容範囲を超えているとされます。所得の高い上位25%の人たちが、日本の富の75%を分け合っている状況です。
年収200万円以下の人が85年以来、21年ぶりに1,000万人を突破しました。日雇い派遣労働者の平均手取額は東京で月10万7千円、大阪で月8万3千円といわれています。日雇い派遣などの温床となっている登録型派遣(派遣会社に登録しておき、仕事があるときだけその期間だけ派遣会社と労働契約を結び派遣される)は、98年の69万5千人から05年には、193万4千人の2.8倍化となっています。これらの人びとはダブルワーク、トリプルワークなど結果として長時間労働を余儀なくされています。
このような状況は、非正規労働者にとどまらず、正規労働者、中小企業者、農民などあらゆる働く人びとの間にひろがっています。たとえば、「規制緩和」のもとで、運輸関係の労働者はかつてない長時間、低賃金労働を押しつけられています。消費が冷え中小業者も多くの人が年収200万にならず、農業きりすて政策の下で都市と農村の地域格差は拡大し、農民は困難な生活を強いられています。「ワーキング・プア」、「ネットカフェ難民」、「格差社会」、「ジニ係数」などという言葉が、マスコミで盛んに使われるようになりましたが、生活が困難な国民は増え続けています。
(2)急速に広がる精神疾患など、働くもののいのちと健康の破壊
@精神疾患の増加
小田晋社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所所長は、「2000年代に入り、うつ病や自殺など労働者の精神健康の低下が顕著 」と強調し、「日本的経営からの脱却、とりわけ年功序列の廃止や成果主義の導入など『改革』の影の部分が反映しているのではないか」とのべています。厚生労働省患者調査によると、うつ病・躁うつ病の気分障害の患者は1999年に43万3千人でしたが、05年には92万4千人と2倍以上に増えています。
社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所が2006年に行った上場企業に対する調査によりますと、ここ3年で心の病気が増えたとした企業は61.5%、心の病気で1か月以上の休業者がいる企業は74.8%、心の病気が多いのは30歳代と61.0%の企業が答えています。
また厚生労働省「労働者健康状況調査」では、仕事で「強い不安、悩み、ストレスがある」とした労働者は、 6 割を超えており、業務によるストレスなどにより精神障害を発症する労働者が増加しています。
さらに、自殺者数も、98年以降、3万人を超え、そのうち有職者の自殺が96年までの8千人前後が、98年には1万2〜3千人に急増しています。営業不振であえぐ自営業業者や、秋田など東北の県で自殺率が高いことが示すように農民にも自殺が広がっています。精神障害の労災請求件数は2006年度で819件、労災が認められた人も前年比の1.6倍の176件で、そのうちの「過労自殺」も前年比1.6倍の66人など、いずれも過去最多(厚労省「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況」:平成 18 年度版)となっています。
「異常な働かせ方」が蔓延し、労働者間の格差が増大し、職場における人間関係がゆがみ、労働者のいのちと健康、さらには、くらしまでがこわされる異常な事態となっています。まさにメンタルヘルス問題は大きな社会問題となっており、この問題を解決する大きな構えのとりくみが必要になっています。
A悪化する健康診断結果など
50人以上の労働者を有する事業所が対象の一般定期健康診断の結果、有所見者の割合が年々増加し、2006年度は49.1%で約半数の労働者が異常となっています。高血圧など脳・心臓疾患や、過労死に係わる検査項目で有所見率が高くなり、脳・心臓疾患に係る労災請求件数は2006年度で938件、引き続き増加しています。
全商連共済会の調査では、中小・零細企業で健診を受けた人の70%〜80%が有所見者で、受診手遅れでなくなるケースも少なくありません。中小零細業者やそこで働く人びとの健康を守るとりくみは、さらに重視されなければなりません。
B重大災害の増加など労働災害の動向
2006年(平成18年)の労働災害による死亡者数は1,472人で、前年比42人(2.8%)減、過去最少と厚労省は報告していますが、本来労働災害はゼロでなければなりません。一方、重大災害(一時に3人以上の労働者が業務上死傷又は罹病した災害)は、2006年で318件となり、1974年以降、最多となりました。
とくに近年の特徴として、派遣労働者の労働災害が増えたことが指摘されます。新聞報道によると「総務、厚労両省によると、全国の派遣労働者は2004年の85万人から2006年、128万人に増加。労災に遭うケースも2006年、前年比5割増の3,686人(うち死者8人)と急増している。大阪労働局によると、2004年3月から同12月、派遣先で事故に遭った労働者の総数は27人。その後増え続け、2006年には146人に達した。このうち最も多いのが製造業での事故で、2006年は全体の4割を超える64人。64人を経験年数でみると、3か月以下は27人、1年以下が7割を超える47人。年齢別では10〜30代が6割に上った」(2007年 8 月 29 日 読売新聞)ことが報道されています。このような状況の背景にはコスト削減のために正規労働者を派遣労働者に置き換え、危険な仕事を十分な教育など安全対策もないまま派遣労働者に行わせている実態があります。そのうえ、上述のものは、行政に報告された労働災害の数字です。「元請けの労災保険を使うと迷惑がかかり、仕事がもらえなくなると思った」という理由から労働災害を申請しない下請けの事業主など、「労災隠し」が横行しています。派遣労働者では「労災で治療したい」と言えないまま私傷病扱いとなるケースも多くあります。労災隠しを許さないとりくみは、ますます重要になっています。
4.隙間だらけのアスベスト被害者の救済
政府の「すき間なく救済する」というかけ声の下、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、石綿救済法)が2006年3月に施行され、1年半が経過しました。しかし多くの被害者は放置されたままです。アスベスト固有のがんと言われる中皮腫で2006年までに死亡した人は11,048人と推計されていますが、同じく2006年までに労災認定された人は2,011人です。石綿救済法の特別遺族給付金(労災時効者対象)の支給決定をされた人は569人、救済給付の特別遺族弔慰金の支給決定をされた人は1,594人で、多く見積もっても4割の人しか救済されていません。中皮腫の2倍の患者が出ると言われているアスベストによる肺がんでは、労災認定されている被害者・遺族は1,872人、「特別遺族給付金」は272人、「救済給付」では生存者185人、死亡者は55人が認定されているに過ぎません(労災認定数は2006年度末現在。石綿救済法関係は2007年5月現在)。
さらにアスベストをばく露し、潜伏期間がながい中皮腫,肺がんの発症のおそれに苦しむ人びとの健康管理体制も不十分です。健康管理手帳制度は対象者の拡大が図られましたが、間接ばく露者も含めすべてのばく露者を対象とし、CT検査を必須とするなど、改善を図るべきです。地域ばく露の被害者も含め、健診などの健康管理制度を国、自治体、企業に要求することが求められています。
1000万トンと言われるアスベストの処理も、被害を予防する上ではきわめて重要な課題です。しかし、飛散防止策が不十分なまま建築物解体工事が行われており、行政にきちんと監視させる私たちのとりくみが重要になっています。
政府は私たちが求める国、石綿関連大企業の責任を明らかにした抜本的な対策をとろうとはせず、アスベスト対策を終わりにしようとしていますが、これから被害がさらに顕在化していきます。
5.労働法制改悪に反対し、いのちと健康を守る勢力の前進
以上のように働くもののいのちと健康めぐる情勢は、きわめてきびしい状況におかれています。いわば「まったなし」の状態です。しかし国民のたたかいも前進しています。
厚労相の諮問機関である労働政策審議会が、昨年( 06 )の報告書に盛り込んだ「ホワイトカラー・イグゼンプション制度」が、全労連・連合・働くもののいのちと健康を守る全国センターをはじめ、労働者・国民の反対の声と運動は、参院選を控えた安倍首相(前)に、今春の国会へのホワイトカラー・イグゼンプション法案の提出を断念させました。私たちの運動の大きな成果といえます。
また、労働者、被災者、遺族、支援者などの過労死・過労自殺・精神障害などの労災認定や損害賠償を求める闘い、炭鉱やトンネル坑内労働者のじん肺やアスベストによる疾病の国の責任を問う闘いなどが全国各地ですすめられています。そのなかで、苦しい闘いの末、成果を収め、同じように闘っている仲間や、後に続く人たちに展望と勇気を与えた「勝利」事例が少なからず生まれています。
さらには、青年層を中心に膨大な未組織労働者は、劣悪な労働条件・無権利状態の中で、安上がりの労働力として働かされており、心身の健康の荒廃がひろがっています。しかし、そのような状況の非正規労働者の一部は、自分たちの雇用確保と労働条件の改善に立ち上がり、ナショナル・センターや正規労働者の運動の支援を受けながら、労働組合に加入あるいは労働組合を結成して要求を結集し、社会的にも大きな関心を集めています。
人間らしい、健康で楽しい労働の確立のためには、正規労働者だけでなく、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、自営業者、農民、一人親方など、働くすべての人びとのなかに、いのちと健康をまもる組織と力量を早急に築きあげていくことが緊要となっています。
W. 働くもののいのちと健康を守る活動の課題
−中・長期的な目標も視野に入れた今後1年の方針−
「はじめに」の項で述べましたように、今総会の活動方針は、10年目を迎えた全国センターの活動の成果と教訓を提案し、きびしい情勢を打開していくために、中・長期的な展望を視野に入れ作成されています。今後1年間の運動の課題、方針もその立場に立って提起します。しかし中・長期的な目標と課題は、さらに議論が必要であり検討していくことが求められています。
1. | 労働運動、国民各層の運動と連帯し、長時間労働の是正などディーセントワークの実現を勝ち取ろう |
2. | 職場、地域で働くもののいのちと健康を守る活動をさらに前進させよう |
(2)地域・職域丸ごと健康づくりと特定健診・特定保健指導への対応
自営業者、農民、建設職人や中小零細企業で働く人びとの健康状態はきわめて劣悪です。地域・職域丸ごと健康づくりの立場にたって、業者組織、労働組合、医療機関、市民組織などと働き方やいのちと健康問題での対話や行動を呼びかけましょう。その際、住民ぐるみの健康づくりを担う自治体衛生部局や中小零細企業で働く人びとの安全衛生を担う地域産業保健推進センターなどとの共同を追求しましょう。
来年4月から始まる特定健診・特定保健指導は、すべての国民に係わる問題ですが、40〜65歳を対象としており、「働くものの健康」に大きく係わる制度です。実施主体が保険者となりますが、「健康は自分の責任で守れ」という考え方が強要され、事業主や国、自治体の責任があいまいにされないよう対応していく必要があります。
全国センターは、来年1月19日に特定健診・特定保健指導検討集会を開催し、今後の対応を検討していきます。
(3)被災者救済の活動
過重労働による過労自殺、過労死をなくし、メンタルヘルス不全など労災職業病を出さない職場づくりが私たちのとりくみの基本ですが、悲惨な過労死は後を絶ちません。労災認定や裁判の取り組みを進め、補償の獲得など被災者救済の活動は、引き続き重要な課題です。 また労働災害被災者・遺族の補償を速やかに進め、「労災隠し」をなくすためには、労働基準監督官の増員が必要です。さらに精神障害判断指針は実態に合っていないことが多くの行政訴訟の勝利で証明されています。また労働保険審査会など審査の改善も緊急の課題です。公務災害でもほぼ同じことが言えますが、労働災害、公務災害の制度的改善を求めるたたかいはますます重要になっています。全国センターは係争事案調査などで全国の状況を把握し、地方センターなど加盟団体間の交流、被災者団体との交流をはかり、認定基準改正実現のための要求を労働基準行政検討会、事例検討会などでまとめ、可能なところから、関係行政機関などへの要請行動を行います。
また被災者救済のとりくみを、再び労災・職業病を出さない健康で安全な職場づくりへと前進させることが重要です。とりわけ精神障害被災者の職場復帰は、予防(再発防止)まで視野に入れた総合的なとりくみが求められます。同時にリハビリ勤務については、事業主に対する働きかけや、労災制度の改善が必要になっています。
3. | アスベスト被害者の完全な救済と予防措置を前進させよう |
4. | 未来をになう活動家を育成しよう |
5. | 共同と連帯へ。いのちと健康を守る組織を強化しよう |
(2)全都道府県に地方センターを
各県に地方センターをつくっていくことは引き続き重要な課題です。県段階だけでなく、地域センターも積極的につくっていきましょう。さらに幅広い労働組合、団体、個人のいのち、健康を守る共同のとりくみを、地域の草の根から起こしていきましょう。
全国センターは、この総会直後に地方センター交流集会を開催します。その成果の下に地方センターづくりを促進する方針を検討し、センター間の協力・共同を進め、活動を活性化する方針を検討します。
(3)研究者および研究組織、専門家の活動への参加と部会、研究会などの活発化
研究者や研究組織、弁護士、医師などの専門家が、活動家の養成や労災認定闘争、治療や職場復帰などで、働くもののいのちと健康を守る活動を支えてきました。今後、調査研究活動、政策立案など、さらにひろい分野でさらに多くの研究者、専門家の参加を求め、運動団体との協力・共同の関係を築いていきましょう。
研究者や専門家の積極的な参加を求め、労働基準行政検討会などの部会や研究会の活動をさらに活発化していきます。
(4)全国センターの強化
全国センターは、これらの課題を遂行できるよう理事会や事務局の体制を強化していきます。そのためには財政基盤の確立が必要です。会員を増やし、季刊誌「働くもののいのちと健康」や「全国センター通信」の飛躍的な拡大を進め、全国センターの役割を強める中で、財政基盤を確立していきます。
(5)全国センター10周年記念事業
働くもののいのちと健康を守る運動をさらに発展させるため、全国センター結成10年の事業を行います。記念事業実行委員会をつくり内容を検討し、具体化します。
第10回総会で選出された役員
理事長
福地保馬(個人会員)
理事長代行
長谷川吉則(全日本民医連)
副理事長
今村幸次郎(自由法曹団)、
岡村親宜(個人会員)、
木部智明(MIC)、
田村昭彦(九州セミナー)、宮垣忠(全労連)
事務局長
今中正夫(全日本民医連)
事務局次長
井筒百子(全労連)、柴田和啓(東京センター)
理事
阿部眞雄(個人会員)、
伊藤良文(国公労連)、伊藤喜夫(化学一般労連)、大山泰弘(広島センター)、岡野孝信(日本医労連)、川口英晴(JMIU)、菊谷節夫(神奈川センター)、木下恵市(京都センター)、小滝勝弥(埼玉センター)、佐々木昭三(個人会員)、
鈴木蔵人(生協労連)、
高島牧子(全労連)、
高橋信一(全教)、
高橋敏夫(民放労連)、東郷泰三(全日本民医連)、富樫昌良(宮城センター)、冨田素實江(北海道センター)、中林正憲(千葉県センター)、
藤田良子(自治労連)、
藤好重泰(建交労)、保坂忠史(山梨県センター)、宮崎脩一(愛知センター)、村木俊之(全商連)、村田敏史(大阪センター)、森崎 巌(全労働)
(第 10 回総会は上記以外に2名、理事会の責任で補充することを確認した)
会計監査
貝之瀬信夫(全信労)、
菅田敏夫
(長野県センター)
顧問
池田 寛(全国センター元事務局長)、田尻俊一郎(
大阪社会医学研究所元所長
)、辻村一郎(同志社大学名誉教授)、細川 汀(京都府立大学元教授)、渡部眞也(滋賀医科大学名誉教授)
参与
色部祐(全国センター元事務局次長)、北口修三(全国センター前理事)、島倉昌二(全国センター元相談員)、高田勢介(全国センター相談員)、丸山富治(
建設一般前書記次長
)